プロ野球　男道！

ところが、以下の記事により、有り体に言えば清原対阪神バッテリーの「一世一代の大勝負」（本当はさほど大げさなものではございませんが）とも言える勝負が、踏みにじられることになりました。

清原“威嚇”直球投げんかい！満塁チャンスで空振り三振　←サンスポ.com4/22記事

たしかに、いささか点差の開きすぎた感のある、面白みに欠ける試合ではございました。問題の場面は7回裏にやってまいります。阪神先発の井川はこの回、阿部に本日2本目のソロ本塁打を打たれた後、四球とヒットで二死満塁のピンチを迎えておりました。ここまでたいへんよい内容で投げていただけに、これ以上の失点は避けたいところです。次の打者はいよいよ清原です。ここでベンチは敢えて井川で勝負せず、右の藤川を投入いたします。指揮官としては当たり前の采配です。

500号本塁打のかかった清原と対峙することになった藤川の心中は、いかばかりであったのでしょうか。しかも清原はここまで無安打と、「手負いの獅子」も同然です。今までの清原でしたらこんなとき、ひと睨みで投手をおびえ上がらせ失投を呼ぶことなぞ容易いことでしたでしょうが、最近の清原はなんとも優しい目をしているのです。決して褒め言葉ではなく、勝負の場には似つかわしくない緩んだ目をしているという意味です。
ですから、見ていて打たれる気がしないことが往々にしてあるのです。昨日もそうでした。手負いの獅子どころか「瀕死の獅子」を見ているかのごとき有様でございました。

カウントは2-3、一本のファウルもございません。フルカウントできっちり6球目に清原が欲したストレートも、ボールになったものも含めて3球投げております。それらのストレートに合わせることができなかった男が、フォークボールに空振りして「（ストレートを投げない藤川は）ケツの穴、小さい」とは笑止。
仮に藤川が最後にストレートを投げて本塁打にしたとしたら、「清原は本塁打を打たせてもらった」という「汚名」が残るのみです。そしてストレート勝負をした阪神バッテリーは、たとえそれが蛮勇であったとしても「男らしい勝負をした」と、賞賛されることでしょう。

「起こらなかったこと」を云々しても仕方がございません。起こったことに反応してみましょう。

そもそもあの場面で本当にストレートが定石なのでしょうか？　おそらく清原とその取り巻きのロマンにとってはそうであったのでしょうが、冷徹な勝負の場で計算し尽くされた「ストレートなロマン」が必要でしょうか。勝負事の中にロマンが必要としたら、それは作り出されるのではなく生み出されるものでございましょう。ロマンを勝負事に持ち込むのではなく、勝負事がロマンを生み出すのでなくてはなりません。そうでないと、勝負が「真剣勝負」たりえないのです。
圧倒的な力を持った相手と戦うとき、真っ向から勝負をしたら、一太刀で絶命させられるのが分かっていて真っ向勝負に出る者を愚か者と呼びます。また、相手も真っ向勝負はないと考えるのが、真に力のある者の判断と言えるでしょう。

百歩譲って、清原のストレートを求める気持ちを汲んだとしても、それは相手投手との力のバランスが五分と五分という条件でなければ、小さいのは清原の方だと思うのです。ストレートを求めるとしたら、その相手は井川でなければならない。藤川に、ではなかったはずです。藤川は「格下」なのですから。

一方、藤川は

「本当はストレートを投げたかったですけど。そこまでの力がなかったということです。四球？　それは全然、頭になかったです」

と話しているそうですが、冷静に相手打者との力の差を計って、自分の力が劣っていることを認めた上で矢野の指示に従ったのです。ところが、四球になるかもしれない危険性に関しては「頭になかった」とは、何を意味するのでしょうか。
藤川は渾身のフォークボールに自信があったのでしょう。清原は必ず振る。いや、振らせてみせる。藤川の勝負のあり方は至極まっとうです。男の勝負をしたと思います。

それを桑田が

「点差（８点差）からして、普通なら真っすぐ。変化球のサインが出ても、首振ってまっすぐですよ」

と言ったということですが、桑田がどう思おうがそれはこの際、どうでもよいことでございます。問題は、わざわざ桑田からかような発言を引き出して、記事にしてしまうマスコミのあり方です。このような発言が流布されることで、清原がますます惨めになるだけだとしたら、マスコミ（ここではサンスポ）に清原を貶めたい意図があったとしか思えません。上の発言はわたくしには哀れみであり、へつらいにしか聞こえてこないのでございます。もちろん、多少の偏見もございましょうが…。

むしろ、2本の本塁打を打ちながら「チームが勝たないと意味がない」「（内海のKOは）ぼくも的確な指示ができなかった」と言った阿部の方が、男らしいと思います。また、ここに清原の示すべき態度のヒントが隠されているのです。
すなわち、自らの記録が打ち立てられなかったことより、チームが勝てなかったことに対して悔やむべき。今の巨人に必要なのは、清原の記録ではなく、チームの勝利であるはずです。
昨日の巨人の敗因は
1.　清原の記録達成に賭ける執念が強すぎた
2.　借金返済、東京ドーム、阪神戦への気負いが大きすぎた
3.　赤星の「絶対に勝ちましょう」のひと言が持った求心力
といったところでしょうか。

この記事は「自称阪神タイガース評論家」の「七回裏二死満塁打者清原」を参考にさせていただきました。そこに寄せられたコメントの中のBSミツルHさまのひと言を、またもご本人の承諾なしにご紹介させていただきます。

野茂は「フォークボールは攻めですか、逃げですか？」と聞かれたとき、あの無表情に軽蔑の兆しを見せた。逃げのストレートだってある。攻めの変化球だってある。球界には「ストレートしか打てない張りぼての打者にはストレートを投げてあげなさい」などというマナーは、ありません。

いつもながら的確な表現でおみそれいたします。わたくしが長々と文句を綴るほどのことはなかったのかもしれませぬ……。

最後に、昨日の日テレの中継を見ていて気になったことを申します。それは実況アナが何度となく清原夫人の「夫を支える妻の姿」を美談として垂れ流していたことでございます。かような話は、清原が引退した後、後日談として聞こえてくるべきもので、まさに今勝負の真っ最中にそのような話を暴露されたのは、同じ妻の立場としてたまらないものがございました。まったくデリカシーに欠ける所行でございます。